いま生きている

「いま、生きているのよ」
そのとき、言われた言葉だった。

昨日できていたことが、今日できない。
今日できていることが、明日できなくなっているかもしれない。
でも、いま生きている。

いま、生きている。
この言葉の向こう、この手のひらの先に、患者と医療者がいる。
亡くなったひとも、いま生きているひとも。
患者と一緒に生きている、医療者の言葉。
或いは、患者が医療者に告げた言葉。
誰かと誰かが触れて、そのとき流れた言葉。

揃えた二本の指で、すっと腕を撫でられた。
誰にも見られることがなかった腕だった。
昨日はどうだったのか、明日はどうなっているかわからない。
でも、いま生きている。

そう、いま生きている。
どんなだって生きていける、死の間際まで生きられる。
どんなだって生きようとして、生きてしまうのだろうし。
それが生命だから。

患者の向こうに医療者を見る。
医療者の向こうに患者を、医療者の先生や先輩を、
そしてその向こうに患者を見る。