カガクシャの言うことは

ナノレベルでみる手のひらは向こうがわまで透けていた

ほらね 網の目みたいでしょう 人間の身体は すけすけなんだよ
人間の身体はね まいにち 入れ替わっているんだ
だからまいにち食べたり飲んだりしなくちゃいけないんだ

手のひらの向こうがわを見ながら語りかけられた言葉を 
この手のひらを見ながら幾度おもったことだろう
外来の待合で 車内で 日常の動作のふとした時にも
うだるように暑い日も 静かに暗く冷える日も 

人間の身体はね 物質の化学反応 酵素ひとつとってもそのひとそのひとで違う それが個性

個性ということばの使われ方をはじめて納得しながら聞いた

ぼくはカガクシャだからさ 脳内の物質のやりとりひとつみても非常に複雑で頭が下がる
いちど悪くなってそこから良くなってくるのに*年 その3倍はみておいたほうがいい
ぼくはカガクシャだからさ カガクシャの言うことは聞いておいたほうがいいよ 

人体の皮膚や骨が半年ほどで入れ替わるのだとしたら
わたしの骨も皮膚も ここでの呼吸で日々いれかわりつくられて
あなたと日々食事をして あなたと眠り あなたと話し あなたに触れ あなたの気配を感じ 匂いを嗅ぎ
あなたとの時間で 
いまの私の皮膚 私の骨 私の血ができているのなら

カガクシャの言うことは聞いておいたほうがいい