2013-01-01から1年間の記事一覧

ケアの時間

浜渦辰二「ビジネス・倫理・ケア」西日本哲学会編『西日本哲学年報』第17号、2009年10月5日(93-110頁)より抜粋 *「はまうず・ホームページ」(http://www.let.osaka-u.ac.jp/~cpshama/gyouseki/gyou-ha2.html)PDFにて全文公開 …しかし、残念ながら、鷲田…

わたしの好きなおじいさん ほんやくぶんがく編

その1 ゾシマ長老さま@『カラマーゾフの兄弟』 「ああ、慰められぬがよい、慰められることはいらぬ、慰められずに泣くがよい」などと言われたら泣きます。長老さまー。米川正夫訳で読んだおかげです。 「おまえさまを一目おがみに参じやした。わしはもう何…

さばくのでりだ

井筒俊彦『意味の深みへ』岩波書店、1985年 印刷・三陽社 製本・牧製本 「デリダのなかの「ユダヤ人」」(←初出:『思想』1983年9月号)より抜粋(96頁-97頁) 「場所」(lieu)とは、enracinement(=rootedness)を意味する、とデリダ自身が言っている。大地に…

ケア3題

その1 ぶんしんの術望・聞・問・切の四診が東洋医学の診断の基本らしいのですが そのなかでの聞診は患者の「音声、言語、呼吸器、臭い」を医師が聴いたり嗅いだりして診ていくことを言うようです。 患者さんの声の張りや話しぶり、息づかい、におい。診療で…

ウイロウ翻訳

見えないとわかるのは、見えていたものがあったから。 見られているとわかるのは、見られていなかったことがあるから。 伝わらないと感じるのは、かつてだれかと伝わりあっていたから。 伝わっていると思うのは、いつかどこかで伝わりあえずにいたから。 認…

あいだがらのあいだ

酒井直樹『日本思想という問題 翻訳と主体』岩波書店、1997年 「3 西洋への回帰/東洋への回帰 ―和辻哲郎の人間学と天皇制―」より抜粋(118頁-119頁) (初出:『思想』1990年11月号、岩波書店。Boundary 2,vol.18,no.3,1991) ハイデッガーの現存在の分析…

ばるたんタロウ

七月です。 先月後半は梅雨らしい雨にめぐまれ痺れました。ぴきぴきびりびりじんじん。 くもりのち雨、雨ときどきエイリアンの季節。眠っていて身体がぴきぴき攣れていくことがありますが ぴきぴきぴきぴき手からエイリアンになっていく、そんな感覚をおぼえ…

身ぶりとじかん、そしてストーリーについて

像といえばわたくし、このところはもっぱら「ラオコオン像」をごろりと想い浮かべます(像といってもイマージュとしての形象ではなくて彫像ですけども)。トロイの木馬を疑わしいと思ってしまったラオコオンさんが「ええい邪魔をするでない、おまえたちオダ…

身ぶりのおんがく

三原弟平『カフカ・エッセイ カフカをめぐる七つの試み』平凡社、1990年より抜粋(234頁-236頁)カフカの「非音楽性」〈眼の人間〉〈耳の人間〉というふうな言い方はいつ始まったのだろう。ドイツの文化圏でそうした考え方が広まるにあたっては、ゲーテあた…

おさるのもんしんから

富山太佳夫『おサルの系譜学 歴史と人種』みすず書房、2009年 「路地と帝国のはざまに」より抜粋(←初出:角山榮・川北稔編『路地裏の大英帝国』平凡社ライブラリー、2001年) ヴィクトリア時代の文学に登場するのは大抵等身大の人間たちである。その彼らを…

ごうごう

五月もなかばです。 陽光まぶしくすっかり薄着で美味しそうにアイスを食べる子たちの健やかさ。 私といえばすっかり冷えて電気毛布にコタツで存えているので笑ってしまいました。寝ついていて眠らなくなったりまた眠るようになったりしていましたが 喉から耳…

ものをもらって

すこし動きすぎて疲れて寝ていたら連休の前半が明けました。 もう四月もおしまいの今日のことばのメモ。その1 ものもらい ぱきっと美男子な男子に「久しぶりですね、めばちこ出来てませんか」と言われて「よくわかりましたね、ものもらいです」と目蓋をすこ…

カフェを巡りて

管啓次郎「コヨーテ・パスタ」を読む。とても久しぶり。 http://www.cafecreole.net/library/coyote13.html まだ開店できたてのカフェ・クレオールのなかでも何度も読んだエッセイ。 当時のまま残されていました。コヨーテの文章は、夜明けの高原の匂い、歩…

風に吹かれて

四月もなかばを過ぎ越しました。 花が美しい季節になりましたね、そう言われて遠くの木々を眺めて息をついたのが、春の花の見納め。胸にしみて美しかったのです。 花もすっかり変わりました。先週は通院日。 ぽつぽつと話しはじめて、ドアがこう困るんです、…

「書くこと」について メモ

マーティン・ジェイ『暴力の屈折 記憶と視覚の力学』谷徹/谷優訳、岩波書店、2004年 第三章「ホロコーストはいつ終わったのか? ―歴史的客観性について」より抜粋(56頁-58頁)…過去の世代の経験を取り戻し、その人々の物語が忘却の淵に沈むことのないよう…

四月は

April is the cruelest month, breeding 四月は残酷な月 傷口が開く Lilacs out of the dead land, mixing 死者の国を混ぜかえし ライラックが咲く Memory and desire, stirring 記憶は渇望とめぐりくるい Dull roots with spring rain. 動かぬ根を 春の雨が…

げんてんかいき

小熊英二「神話をこわす知 歴史研究のモラルとは?」 『知のモラル』小林康夫/船曳建夫編、東京大学出版会、1996年より抜粋(83項‐85頁)神話をつくる知とこわす知 そもそも、「神話」とは何でしょうか。それは、現代の自分たちの確信やアイデンティティを…

東風吹かば

通院日でした。 春の嵐が過ぎたあとはこころもち西風も澄んだようで花粉もピークを越えたとか、肩の構えがすこしばかりゆるみます。 冬を残した景色のなか、病院へと気持ちよくゆらゆら歩いて向かいました。 医療者らしき白衣をまとった男性が駆けるように外…

春をうたって

冷え込みが続きます。空は霞んで舌にはぴりりと金属の味。ぐんなり冷蔵されっぱなしです。 冬の名残りのオリオンを見あげながら、花の香りが運ばれているのを嗅ぎわけたのも数週間前のこと。 花粉と黄砂とスモッグの春におそわれてはいるのです。夢をみまし…

台所から海底へ

ハンナ・アーレント/カール・ヤスパース『アーレント=ヤスパース往復書簡1926-1969 1』L.ケーラー/H.ザーナー編 大島かおり訳、みすず書房、2004年より52 K.ヤスパースよりH.アーレントへ ハイデルベルク 1947年1月8日……私どもはつつがなく過ごして…

むうみん

すてきなニョロニョロを連れていたひとに「ムーミンは妖精です」と言われました。ふーぬ。 ムーミンはトロールなのでつまりは妖怪、日本でいうなればカッパやゲゲゲのキタロウさんのお仲間かと思われますが、どうなのでしょう。まあ、そんなことはどうだって…

にろにろ

耳も口もないので話はできない、目はほとんど見えない。でも感じるのはとても敏感なんだ。 …などと、ムーミン谷のスナフキンさんがニョロニョロについて解説をなさっていたのでした。彼らは自足歩行はするけれどキノコの仲間のようなものかと思っていたので…

ぶるぶる

疲れました。ぞくぞく寒気に目覚めては息を継ぎ、もがきながら眠りました。夏場であってもなくてはならぬ電気毛布を忘れたせいでしょうか。溺れながらも潜りつづけているようですが、よく寝ています。「冬眠したいです」と笑って泣き言をいうと「それでした…

みしみし

凍ります。凍っています。痛みます。 北海道の人がシバレルというようなものかと問われて、シバレルは解らないけれども樹木のなかの水分が凍って膨張することで幹が割れる、凍裂を想起していました。寒波に割れる樹木の森林に響き鳴るその音を聞いたことはな…

原植物

診療台に身をもたせ、目を閉じる。クリームいろのひかりのなか、やわらかに手をとられる。 脈をとられる先生の手。治療を受ける。息がとおる。ぼらぼら涙がながれる。空調がぶわりと暖かい。 わたしの足、わたしの腕。診療台のうえのどこにあるのか浮かんで…

こんぱっしょんへ向けて

ハンナ・アレント「集団責任」『責任と判断』ジェローム・コーン編、中山元訳、筑摩書房、2007年 より抜粋(195-196頁)罪と責任 自分がしていないことにたいしても責任を負うことがあります。ただし自分がしていないことについて責を問われるとしても、自分…

ガロア

花田清輝「III 復興期の精神 群論―ガロア」『花田清輝全集 第2巻』講談社、1977年より抜粋(←初出:「文化組織」1942年5月)…… いかにも現実というものは、求めなくとも、しばしば魂と肉体を切りさくものだ。そうして、その結果は、一見、求めて絶ちきった…

セイロガンの香り

紙で指を切りました。先日のことですが。思っていたよりざっくり。 救急箱からいただいた絆創膏はセイロガンの香り。ふんふん嗅ぎながら過ごしましたさ。知覚が低下しているときに動けると怪我をしやすい。実際にしてきましたし、したのでした。 怪我をして…

フォネーとロゴスのあいだで

岡田温司『アガンベン読解』平凡社、2011年より抜粋…… 『アウシュヴィッツの残りのもの』でアガンベンは、レーヴィが伝える「フルビネク」と呼ばれていた、見たところ三歳ぐらいの「話すことができず、名前もない」幼い少年の話を取り上げている。…(略)…誰…

飛ぶ

井上洋介「ビックリえほん」啓林館 ジョイフルえほん第20号より抜粋おなかの すいた へびさんが じぶんの しっぽを ちぎって たべた (…中略…) それで いまでは あたまだけ - ウロボロスさんもどうぞそのまま、ひとくちちぎってめしあがれ。以前、ある先生…