じゅんすいじぞく

空間に懸想して 時間なんてけちな私生児、とは九鬼さんの詩ですが、時は過ぎてしまいました。
冷たい雨はやわらかに降りつづき、花粉が顔にねたつきます。
春です。ひとは動きます。

薄らぎゆく冬景色を通院ばかりで過ごしました。
通院はすこしばかり遠出、景色も異なれば雨の匂いも異なるようで、文字通りの違う空気を呼吸します。
春の雨はつらい、身にこたえる、というけれど、それでも雨は美しい。

日射しのあたたかな通院日、担当にあたった看護師さんは体温がとても高くて、触れていないのにじわりと熱い。
冷たくなっていた私ですが、看護師さんの放射熱にじんわりあたためられながら採血を受けました。
医療用ロボット、ヒューマノイドには、体温は装備されるのでしょうか。

雨に冷えきる通院日、待合室で「お先でした」と声をかけられました。
ほそくてちいさな息、けれど語尾までしっかりとしたお声。会釈しながら、ふっと息がもれる。
付き添いの方がいらっしゃる患者さんが多いのだけれど、ときおり、車椅子の向きを変えたり帰り支度をする動作に、患者さんの息づかい、付き添いの方と患者さんの呼吸の空間を感じ、私もそっとおなじ息をして、そっと落ち着きます。
ロボットでも息が合う、ということは、ありうるのでしょうか。
それとも、息(アニマ)がないゆえに、ヒトではなくてロボット、なのでしょうか。

先月までするする落ちていった体重がもどり、いまも体重をふやすべく食べています。
ご挨拶やら何やらで頂いた甘いものは、栄養にはなりませんが身につきます。
いただきものは到来物。贈与は舟に乗ってドンブラコ。