めちえ

中井久夫「治療文化と精神科医」『つながりの精神病理』ちくま学芸文庫、2011年 253頁より抜粋

…私に依頼された課題は「魔女・呪者・精神科医」とでも題するようなものであったが、しょせん私は私の音しかだせない。たまたま最近さる文化人類学者と会って話がかみあわず、はたと、私は本来彼らと並ぶ学者ではなく、むしろ学者の調査対象者であるのに、学者あつかいされたからおかしなことになったのだと気づいた。そこで私は文化人類学者あるいは文化精神医学者の調査対象としての私の経験を気ままに書くことにする。私の側にじゅうぶん余裕があればいいのだが―。

…(中略)…

…ついでにいうと、私は自分の治療を何と自己規定しているかと聞かれたことがある。別に銘打っていなかったので、とっさに「ウーン、まあリアリズムというかエンピリシズムというか」と答えたことがある。精神科医をどう規定しているかというアンケートに答えたことがあるが、「職業―まあフランス語でいうメチエ(métier)でしょう」と書いた。アンケートであるから反応は不明だが差出先は東京のある集団である。フランス語とはキザだが、承知でいったのは、professionでもcalling(Beruf―これはプロテスタント圏の言葉でないと意味がない)でもないという意味をふくめてである。ましてそれ以上ではないと。少し職人的なニュアンスのある言葉である。……

                                                                                                                                                                                        • -

「職業」といえばいつでも「ぷろりん♪」(←愛らしく言ってみました、師匠に倣って)なんてわけではないのですな。
「手しごと」には「合理化」しつくせない何かがあるのでしょうな。

…魔女といえば、マクベスの三人のおばあさんを想いうかべるのですが。
魔女というのは職業なのですな。リタイアメントとか年金とか無さそうです。生涯現役。