図像のちから

宗田一・池田光穂『医療と神々』平凡社・自然叢書10、平凡社、1989年、10-11頁より抜粋

 序論 治癒神とは何か

  治癒神を問うことの意味

 近年になって人々は〈健康〉に対して、ますます関心を持つようになってきた。社会には健康についての議論が氾濫している。……

 ここで〈健康〉を考えるにあたって、人々を治癒する神、すなわち〈治癒神〉というものを考えてみる。現代社会における合理的な健康観からみれば、ここで治癒神を例にすることは意外に思えるかもしれない。しかし治癒神には、〈ひとが病いになること〉、すなわち病者、治療者、家族、共同体、病いに関する信念、あるいはこころの安寧、治癒の源泉など、およそ人々が考える健康についての概念が凝縮されているのだと言っても過言ではない。健康を即物的な身体だけに還元する思考が主流になっている今日において、世界のいろいろな治癒神への関心を強調することは、健康にまつわる豊かなイメージを取り戻すうえでも重要なことと思われる。

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医療人類学入門+治癒神の紹介という、すてきな御本。
前半では、さまざまな治癒神が、やおよろずの神から、道教世界、古代インド、古代オリエントギリシアローマの医神にキリスト教守護聖人まで、見開き二頁、図像付きで解説されています。ぱらぱら図像を見ていくだけでうふうふ楽しい。線画、書画、壁画、絵画、石像、彫像などマテリアルとしてのメディアに(と言ってもいいのかしらん)それぞれの時代地域文明があらわれていてそれだけでもおもしろいのですが、図像の選択がすてき。
治癒神のみなさん、たいていは凛々しく美しいお姿なのですが、ときおり、図像によっては、かわいい…。おかしい…。あやしい…。のです。
著者のご趣味の高さがうかがえます。審美眼。